進路選択の不安や悩みをどうやって解消したらいい?そんな悩みを抱える高校生、大学生の皆さんが自分のペースで将来への考えを深められる方法があります。その1つが「MYノート」を書くこと。キャリア教育が専門の島根大学准教授・丸山実子先生に、MYノートを書くメリットや取り組むコツを聞きました。
自分の言葉で気持ちを
表現することで
あなただけの「キャリアの地図」が
できあがります。
記者 進路やキャリアを考えるとき、将来へのわくわく感よりも、「何から、どうやって、取り組んだらいいの」という疑問が先立ってしまう生徒、学生は多いようです。そんなときはどうしたらいいでしょうか。
丸山先生 自分の考えを「整理すること」が大切です。方法として自分なりのノートを書くことをおすすめします。その理由は大きく四つあります。
まず一つ目は、頭の中が整理されること。考えや思いを言葉にして書く過程で「自分は何を大事にしているのか」「何に興味があるのか」がはっきりしてきます。もやもやしていた気持ちが、書くという行為を通して、だんだんとスッキリしてきますよ。
二つ目は、自分の考えを深められること。書いてみると、「なぜそう思ったのか」「他にどんな選択肢があるか」など、自然と考えが広がります。これは、進路やキャリアを選ぶときにとても役に立つ方法なのです。
三つ目は、変化に気づけること。過去のノートを読み返すと、「あのときはこう考えたけど、今はこう思うようになった」と、自分の成長や変化に気づくことができます。
最後に四つ目は、自分だけの「キャリアの地図」を作れること。ノートは自分の経験や気持ちの記録です。それを積み重ねることで、自分だけの「キャリアの地図」ができあがります。進路やキャリアに迷ったときに振り返ることで、今の自分に必要なヒントが得られるはずです。
ノートは誰かに見せるためではなく自分のためのものです。進路やキャリアを考えるときこそ、自分の言葉で、気持ちを表現することで、未来への一歩につながります。
記者 丸山先生ご自身もノートを使われていますか。
丸山先生 時間軸が縦に分かれているバーチカルタイプがお気に入りです。予定表のほかに1週間分のTODOリストがついています。このタイプとは別に、1カ月に1ページ書く形式のノートを10年間使っています。ノートを書いていてよかったと感じるのは、「かなえたいな」と書き出したことが実際にかなっているときですね。「この人に会いたい」などプチ目標も多いですが、実際にかなっていると「ちゃんとできているじゃん!」と自分を褒めたくなります。忙しくて定期的に書けないときは、例えば12月のページに「今は実は1月です。先月はこんなことがあり、こんな気持ちでした」と後から振り返っています(笑)手ぶらで生活するよりは、自分のための蓄積が形として残っている方が安心しますよ。
記者 MYノートと似たようなものに全国の小中高で活用されている「キャリア・パスポート」がありますね。
丸山先生 STORYを手に取る高校生のほとんどがキャリア・パスポートを実際に活用しています。
キャリア・パスポートは、児童・生徒・学生が自分の活動や学びを記録し、振り返るための「自分だけの成長記録帳」です。文部科学省が2020年度に導入を進め、全国の学校で活用が広がっています。
日々の活動や気づきやがんばりを記録することで、自分の成長を見える化できます。自分の興味や得意・不得意を振り返る中で「どんな仕事が向いているか」「どんな学びが必要か」を考えるヒントになり、将来の進路選択にも役立ちます。また、記録を基に先生や家族と話す中で、自分の考えを整理したり、新しい視点をもらえたりします。キャリア・パスポートは「自分の未来を自分でつくる力」を育てる大切なアイテムです。
記者 私が高校生なら、キャリア・パスポートを書くときに難しく考えてしまいそうです。
丸山先生 高校生の皆さんには、「自分の物語」を書くようなわくわくした気持ちで取り組んでほしいです。取り組むときは「活動を振り返って自分が何を感じたか、考えたか」を必ず意識しましょう。出来事のみでは単なる報告文です。出来事と感情をワンセットにできるようになってきたら、プラスで、将来や未来の自分につながる言葉を意識してみてください。夢や妄想でも大丈夫です。ちょっとした意識付けをするだけで、キャリア・パスポートを卒業してMYノートを持つようになったときに、わくわくした気持ちでノートを書けるはずです。
記者 キャリア・パスポートとは別に、自分だけのノートを作ってみたくなったら、ノートを買って自分なりに書いてもいいのでしょうか。
丸山先生 自分だけのノートを作ってみたいという気持ちはとてもすてきです。キャリア・パスポートは先生や家族、仲間と共有しますが、MYノートは言葉の通り、自分だけのものです。好きな色やデザイン、大きさのノートを探してみましょう。大学生になったら、もうキャリア・パスポートはありません。自分で日々の活動や気づきを振り返り、自分自身と対話する力が必要です。いきなり大きなノートを買う必要はありません。案外、大人は小ぶりのノートを片手に生活していますよ。昨今、SNSで自分の気持ちを記録する人も増えています。他人からフィードバックを受けたい、他者からの意見を求めているという人は、必ずしもノートでなくてもいいのです。自分だけの「自分との対話法」を見つけてくださいね。
記者 自分の「今」の気持ちと向き合うことが大切なんですね。
丸山先生 社会に出たら仲間や家族がすぐそばにいないこともありますよね。ノートを書くことは、もう一人の自分との壁打ちです。自分で決断することが大人になったら増えていきます。そんなとき、これまでを振り返られ、自分の味方になってくれるノートが1冊手元にあると心強いですね。
丸山実子先生
Maruyama Jitsuko
東京都出身。大学卒業後、会社員、航空会社の客室乗務員を経験。その後、キャリアコンサルタントとしてニートや引きこもり支援、ホテルでの人事部採用担当を経てキャリアに関わる教育業を起業し代表となる。2016年より島根大学准教授。主にキャリア教育に関わり、人材育成・キャリアデザイン部門長として地域志向入試で選抜された学生担任を行う。専門は、ライフキャリアの視点を取り入れたキャリア教育。小中高におけるキャリア・パスポート研究。
山陰中央新報社
営業部周藤みづき
新聞社の広告営業として働く周藤さん。これまでネットショップの運営会社や航空会社で客室乗務員として勤務した経験があります。周藤さんにとってノートは「自分の活力をかき立て、さらに夢をかなえてくれるもの」といいます。学生時代からノートを自己分析用として活用してきました。きっかけは大学生の頃から読んでいた「日経Woman」。ノート術や時間活用術、社会人になったときの勉強法などあらゆるテーマにときめきを感じ、「私もいつまでも自分自身を高められる女性でいたい!」と思い、ノートを書き始めました。特に書き方のルールを決めないのが周藤さん流。ときめきを感じる場所で好きな音楽を聞きながら、嗜むように書くことがポイント!自分の大切にしたい考えが本や雑誌の中にあれば、ノートに書いてみる。そんな簡単な書き方で進めていきます。
ノートの使い方
ノートの始めには自分が元気になる人の切り抜きや言葉を入れる!この時の私は、「失敗を挫折だと思わないこと。ダメだったらやり方を変えるだけ。」という雑誌に載っていた言葉に励まされたので、切り抜いてノートに貼り、いつも見返していました。
見たいページをすぐに振り返られるように目次も入れる!「自分だけのノート」らしさが出てきて、ノートへの愛着が湧きます。
デザイナー
ディレクター藤江哲也
デザイナーとしてデザイン制作やディレクションを行う藤江さん。さまざまな仕事を同時並行で進めていく中、なるべくフラット(平常心)でいることをを意識して仕事をしています。そんな藤江さんおすすめのノート術がこちら。2025年1月に先輩から勧められ、それから毎日書き続けています。1日に書くのは3ページ。書き始めてから10カ月になりますが、1日も休んだことはありません。藤江さんにとってノートとは「頭の中のもやもやを取り除くためのもの」。ノートを書くときのMYルールとして、誰にも見せないと決めているので、ありのままをさらけ出せるし、書き方も支離滅裂でOK。だからこそ「自分の内面としっかり向き合える」といいます。藤江さんはノートを書くようになってから、誰かと比較するのではなく、継続して書いていることや1日のゴールを決めて達成できている自分自身に価値を見出せるようになりました。
僕はもともと考えすぎる癖があり、考えてもどうしようもないこと、忘れたくても忘れられないことなど、常に頭の中がいっぱいでした。そういう状態では新しいことを考えるのがむずかしく、ネガティブな思考に陥りやすかったです。先輩から教えてもらったこのジャーナルは、いわば「頭の中のゴミを出す行為」。毎朝思っていることを書くだけでスッキリします。またその日のタスクやゴール設定をすることで無駄な1日を過ごすのがとても少なくなりました!
ノートの使い方
書くタイミングは
朝2ページ・夜1ページの
計3ページ
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【3つの項目を書く】

🅐感謝していること⇒朝は憂うつな始まりにしないように 🅑その日のゴール(目標)⇒予期せぬことが起こった時もゴールが決まっていると軌道修正ができる! 🅒どういう人物になりたいか(=アファメーション)⇒プラスな思考になる・良いことを自分からキャッチできるようになる
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【とにかく埋め尽くす】

🅓頭の中にある思考を1ページに埋め尽くす!⇒キャパシティーを超えてしまうと気が沈んでしまう。ノートに書き出すことで自分の考えが見える化し、現状を解決するためのスペースが確保される。これが一番大切なページで、自分の思考と向きあうことができます!
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【2つの項目を書く】

🅔朝立てたその日のゴールの結果を書く。🅕次へのステップのための反省を書く⇒自分を褒める機会ができ、自己肯定につなげることができる。夜はとにかく自分を褒めてあげることが大切。布団の中で考え事をしてはいけません。このノートでスッキリして幸せな眠りにつきましょう!
新聞社の広告営業として働く周藤さん。これまでネットショップの運営会社や航空会社で客室乗務員として勤務した経験があります。周藤さんにとってノートは「自分の活力をかき立て、さらに夢をかなえてくれるもの」といいます。学生時代からノートを自己分析用として活用してきました。きっかけは大学生の頃から読んでいた「日経Woman」。ノート術や時間活用術、社会人になったときの勉強法などあらゆるテーマにときめきを感じ、「私もいつまでも自分自身を高められる女性でいたい!」と思い、ノートを書き始めました。特に書き方のルールを決めないのが周藤さん流。ときめきを感じる場所で好きな音楽を聞きながら、嗜むように書くことがポイント!自分の大切にしたい考えが本や雑誌の中にあれば、ノートに書いてみる。そんな簡単な書き方で進めていきます。